酒と出会いと結婚話

『ねえ･･････』
「ん？」
『お酒って、飲むんですか？』
「大好きだよ。酒と聞いただけで、目の色が変わる」

『え？　そうだったの？』 「涼子ちゃんの前では飲まないようにしていたからね」 『どうして？　別にガマンしなくてもいいのに？』 「これでも自制しているんだ」 『なにを？』 「（酒の勢いってやつをだよ）」

『うちのお父さんは、毎晩、ビール１本ぐらい飲んでるわ』
「晩酌ってやつね」
『でも、タバコは吸わないな･･･。あ、そういえば、昔は吸ってたけど、お母さんがタバコ嫌いで、
　結婚の条件が禁煙だって、おじさんに聞いたことがある。ほんとかどうか知らないけど』
「ははっ」
『うちのお父さんと、お母さん、いちおう恋愛結婚なのよね』
「･･･意外なの？」
『剛が生まれたときだから･･･私が８歳か９歳のころかな？　私、お父さんにどうしてお母さんと結婚
　したのかって聞いたことがあるの。私、なぜだかわからないけど、お父さんとお母さんはお見合いで
　結婚したんだと思い込んでたの。でもお父さんに聞いてみたら、恋愛結婚だったって･･･なんだか、
　不思議だと思ったな』
「･･････」
『よく考えると、子供って、自分が生まれる前の親のこと、ほとんど何も知らないでしょ』
「そういえば、そうかもしれない」
『ウチには、昔のアルバムなんかも、置いてなかったし･･･。昔のお父さんとお母さんを見たいって、
　ちっちゃいとき、お願いしたこともあったんだけれど･･････笑ってるだけで、結局見せてくれなかっ
　た。子供に昔の自分を見られるのって、恥ずかしいのかな･･･？
　あ、別に、家が恋しくなったわけじゃないよ。ちょっと思い出しただけ。ねえ、あなたはお見合いっ
　て、興味ある？』
「相手しだいだね」
『美人だったら、即ＯＫ？』
「ははっ･･･まぁ、そういうのもあるけど」
『でも、恋愛結婚にしても、どこかで２人の出会いがあったわけでしょ。その出会いが、お見合いだと考
　えれば、お見合いも恋愛のうちかもしれないよね』

「涼子ちゃん、結婚したいの？」 『えっ･･･？　あはっ、だって結婚するには･･･相手がいるから、ね』

『それから、こんな言葉があるよ。
　《まず結婚せよ、愛は、あとから生まれるだろう》』
「なかなか重みのある言葉だね」
『ある詩人はこう言ったの。
　《あらゆるマジメなことのなかで、結婚というやつが、いちばんふざけている》
　結婚って･･･なんなんだろう？　わかんないね』


酒を飲むかどうかの話から始まって、両親の馴初め話に進んで、最後は結婚そのものの談議に入っていって･･･。
会話の最初と最後で全く別の話題になっているという、この脈絡のなさが本作品の最大の魅力の一つでした。

まあ相手が現役の女子高生である以上、こういった猫の目会話はつきものだと主人公クンも割り切っているフシがあって、うまく付き合っているなと思います。
「結婚したいの？」と言う意表を突いた切り返しではさすがの涼子も少々焦り気味。でもそれ以上の意地悪なツッコみはなし。さすがです。