りえから電話

『ふわ〜ぁ』 「あれ、どうしたの？」 『え？うん。長い間飛行機に乗ってたから疲れちゃって･･････。それに、ニューヨークだと、今は夜中だ 　から』 「時差ボケってやつか。ニューヨークから成田まで、どれくらいかかるの？」 『ん〜、12時間くらい』 「それじゃ、まるまる半日だ」 『うん。それにあたし、機内ではほとんど眠れなかったから。電車だと２駅くらいでも眠っちゃうのに、 　飛行機だと、何だか緊張しちゃって･･･』 「涼子ちゃんって、ひょっとして、飛行機嫌い？」 『別にそういうわけじゃないけど、飛行機の中って、妙に落ち着かないんだ。狭いし、空気がよどんでる 　ような感じがして･･･』 「ふうん」 『ふわ〜あ』 「あ〜あ、大口開けちゃって。せっかくのかわいい顔が台無しだよ」 『あ、ごめんなさい。なんか、あなたの前だと気がゆるんじゃって。へへ･･･』 「喜んでいいのか、悲しむべきなのか･･･」 『あから、やっぱダメだ。あたし今日はもう寝ます。ニューヨークの話は、また明日、ゆっくりします 　ね』 「うん」 『あ、もしかしたら、夜、りえちゃんから電話があるかもしれないけど、その時は明日の朝、こっちから 　かけるって言っといてください』 「了解」 『じゃ、おやすみなさい』

プルルルル･･･プルルルル･･･プルルルル･･･ 「もしもし」 『あ、ごぶさたしてます。あたし、りえです』 「やあ、ひさしぶり」 『涼子、帰ってきましたか？』 「ああ、今日、帰ってきたよ」 『あ、そうですか。それじゃ悪いんですけど、代わってもらえますか？』 「それがね、ちょっと前に寝ちゃってね･･･」 『寝た？』 「うん。長旅の疲れと時差ボケ。飛行機の中で眠れなかったから、なんて言ってたよ」 『あら、そうなんだ』 「うん。でも、明日の朝、こっちからかけるって言ってたよ」 『あ、はい。わかりました』 「ごめんね」 『いえいえ、おかまいなく。ところで･･･』 「ん？」 『再会の儀式はすませたんですか？』 「再会の儀式？」 『ほら、離れ離れになってた二人が何ヶ月かぶりで再会したんですから、それなりにするべきことがある 　でしょう。熱い想いに身をまかせて、こう･･･ギューッとか、ブチューッとか･･･』 「あ、あるわけないだろう！そんなこと」 『あら、そうなんですか？ざ〜んねん』 「残念って･･･、あのね、りえちゃん･･･」 『あー、もう、そんな怒った声出さないでくださいよ。冗談じゃないですか。冗談！』 「冗談って･･･」 『それじゃ、そういうことで。おやすみなさ〜い！』 ガチャッ･･･ ツーッ･･･ツーッ･･･ツーッ･･････ 「あ、こら！」

『夏休み、二人の女子高生に振り回される主人公クンの図』ってところでしょうか。

アメリカ帰りの涼子は時差ボケで、伝言を頼むだけ頼んだ挙句早々に撃沈。涼子の帰国を待っていたりえは、電話で涼子の伝言を聞くも、返す刀で主人公クンをイジり倒して『じゃ！』で退散。どちらも主人公クンが放置された感ありありで、ちょっと気の毒にさえなってしまいました（笑）。

二人の、長いようで短い夏休みの始まり。静かに始まるよりはこれくらい賑やかしいほうが良かったかもしれませんね。

（トップ絵は、友人たちとプールに行ったときの写真で、このエピソードとは関係ありません）